咳が続く
咳が続く

 私は肺の病気を専門とする呼吸器内科医ですので、「咳が治らない」といって来院される患者さんを多く診てきました。喘息、肺炎、結核、肺がん、COPD、喫煙、単なる風邪、副鼻腔炎、胃食道逆流、心臓や喉の病気、高血圧の薬の副作用など、咳の原因は多岐に渡ります。
 どういった時間に咳が出るか、どういった状況で咳が出るかなど、詳しくお話を聞きます。お話を聞いた上で、検査を行います。レントゲンで肺炎、結核、肺癌のチェックを行います。肺活量の検査で喘息のチェックを行います。喉の検査で百日咳やマイコプラズマの検査を行います。血液検査でアレルギーをチェックします。何度か通っていただき、薬を試して初めて診断できるケースもあります。
 診断でもっとも大切なことは、がんや肺炎、肺結核、心臓の病気などの重大な見落としをしないことです。これらの病気は命に関わります。1か月以上続く咳は、早めに医療機関を受診してください。

 

長引く咳の原因として考えられるもの

咳喘息(せきぜんそく)
咳喘息 咳だけの喘息です。「毎年春先になると咳がでる」「毎回風邪をひくと1か月以上咳が続く」というのが典型的です。長引く咳の原因として、近年増加しています。咳喘息は、風邪やアレルギーをきっかけとして気道に炎症が起き、咳が出る病気です。気管支喘息の一歩手前とも考えられており、治療をしないと気管支喘息へ移行してしまう場合があります。
 症状の特徴は、痰(たん)を伴わず、夜間から明け方にかけて出る場合が多いです。原因としては、風邪などの感染症、たばこや焚火などの煙、ハウスダストなどが言われています。症状を繰り返すことが多く、風邪の後に「毎回」咳が長く続くのは怪しいです。
 レントゲン、肺活量の検査、アレルギー検査(血液検査)などを行いますが、すべて正常であることも多く、疑った場合は吸入ステロイドなど気管支喘息と同じ治療を行います。咳喘息の治療期間については、患者さんの症状をみながら選択します。いったん咳が治まっても、風邪などをきっかけに再発する患者さんも多く、根気よく付き合っていく病気です。
気管支喘息(ぜんそく)
気管支喘息(ぜんそく) 「咳喘息」と同様、気道に炎症が起き、気道が狭くなって呼吸がしにくくなる病気です。特に横になったり走ったりすると呼吸が苦しくなります。咳喘息と同様、季節の変化や風邪のたびに咳がひどくなるなど、繰り返すことが特徴です。昼間より夜間に症状が悪化します。レントゲン、肺活量の検査、アレルギー検査(血液検査)などを行います。吸入ステロイドなどの治療でよくなる可能性が高いですが、「完治」は難しいことが多く、根気良く付き合っていく必要があります。
 詳しくは「喘息ページ」でご案内します。
肺炎
肺炎 肺に細菌やウイルスなどの病原体が感染して炎症を起こしたものを肺炎といいます。
 「熱と咳があり風邪薬で様子を見ていたが、一向に良くならず、汚い痰が出るようになってきた」などが典型的です。「熱だけ」「咳だけ」「胸の痛みだけ」など様々なパターンがあります。特に高齢者の肺炎は、高熱が出ないなど症状が分かりにくく、「いつもよりしんどい、元気がない」といった様子で、肺炎とは気が付かず重篤化してしまうこともあります。
 肺炎は、患者さんの症状とレントゲンの結果から診断します。熱が続く、いつもの風邪と違う、体調が悪い、元気がないなど、気になることがあれば、重篤化する前に早めに医療機関に受診してください。
喫煙・COPD
喫煙・COPD(肺気腫) タバコは刺激物質ですから、喫煙そのものが咳の原因になります。また、喫煙をしている方が長く咳をしている場合、COPD(肺気腫)の可能性があります。階段や早歩きで息切れがしたり、周りとくらべて遅れることはないでしょうか。
 COPDは、たばこに含まれる有害物質が肺に慢性的な炎症を引き起こし、肺が壊れてしまう病気です。禁煙は必須ですが、吸入治療で症状をある程度和らげることができます。詳しくは「COPD(肺気腫)のページ」へ。
 喫煙は、COPDだけでなく、気管支喘息や肺がんなど様々な肺の病気を引き起こすと言われています。気になる症状がありましたら、まずは医師に相談し、禁煙することをおすすめします。(「禁煙外来ページ」へ)
肺がん
 肺がんの方で咳や呼吸困難を訴えられる方がいらっしゃいますが、肺がんのできる場所によって症状が変わるため、特有の症状はありません。進行しても、このような症状がほとんど出ない場合も多々あります。そのため、肺がんは早期発見が難しい病気と言われています。定期的に健康診断を行い、咳が徐々に悪化したり、痰に血が混じる場合は、医療機関を受診してください。特に喫煙をされている方は肺がんにかかるリスクが高いため、早めに受診してください。
肺結核
 結核は結核菌が肺に感染し炎症が起こる病気です。主な症状として、咳や痰が数週間から数か月かけて悪化する、体がだるくなる、微熱が続くなどです。50年ほど前までは、日本で死亡原因第一位だった病気ですが、薬の開発や衛生状態の向上などにより結核は急速に減少しました。しかし、今なお結核にかかる患者さんは数多くいます。患者さんは高齢者の方が多いですが、働き盛りの方でもかかります。
 結核に感染すると、肺の組織の炎症が徐々に広がり、呼吸機能がどんどん低下します。その結果、咳や痰がひどくなり、血痰や息苦しさ、だるさを感じるようになります。結核は、放置していると徐々に悪化し、周りにうつしてしまう病気でもあります。レントゲン一枚である程度判断できる病気ですので、咳が続く場合、一度受診されることをおすすめします。
副鼻腔炎
 鼻が常に詰まっており、においがわかりにくく、横になるとのどに鼻水が下りてくる感覚はないでしょうか。慢性副鼻腔炎は、「蓄膿症」とも言い、頬の内部など空洞構造となっている部分に、膿がたまってしまった状態です。感染症などを除き、長引く咳の3大原因の一つです(残りの2つは咳喘息と胃食道逆流)。症状や顔のレントゲンで診断します。治療は抗生剤ですが、改善しない場合は耳鼻咽喉科にご紹介します。
胃食道逆流(逆流性食道炎)
胃食道逆流(逆流性食道炎) 胃酸が逆流して肺の方に入り、刺激となって咳の原因となります。胃食道逆流は、感染症などを除き、長引く咳の3大原因の一つと言われています(残りの2つは咳喘息と副鼻腔炎)。逆流性食道炎と言って、胃カメラを行うと食道があれていることもありますが、胃カメラを行ってもわからないこともあり、薬を効果を見て初めて診断できることもあります。胃酸を抑える薬を使用します。
その他の疾患
 咳の原因はさまざまで、詳しくお話を聞き、レントゲン、肺活量検査、アレルギー検査、感染症検査などを行い、診断していきます。1回の診察では診断にたどり着かないケースもあります。呼吸器専門医として、「長引く咳」に対し、肺だけでなく、心臓の病気、喉の病気、薬の副作用としての咳など、あらゆる病気を考えて診療を行います。
自分でできること
 どういった状況で咳が出るのか、メモしてみてください。咳の出やすい時間帯はありますか。食事との関連はどうでしょうか。最近飲み始めた薬や健康食品はないでしょうか。同じ季節に咳が出ることはないでしょうか。
 タバコの煙は、強い刺激性がありますので避けてください。辛い物や刺激のある食べ物は避けてください。加湿は良いです。喘息などアレルギーが関与する場合は自宅や寝具の掃除を行ってください。